リズムと音程は脳の中で扱う場所が微妙に違うらしい

リズムと音程は脳の別の部分で処理されているのか?これを調べるためPubMedをmelodyとrhythmで検索するとある症例の報告を見つけた。
Midorikawa A and Kawamura M A case of musical agraphia Neuroreport 2000;11:3053-3057
左の頭頂葉上部に傷害を受けると失書症になる。失書症が解消したあとも音楽を書くことができないという症例が報告された。53歳の女性のピアノ教師が手術のあと失書症と音楽失書症になった。音楽を演奏することはでき、音楽の理解も可能で、失語症、失認症、失行症も認めなかった。手術の15か月あと失書症は改善した。この時点で音楽を書き、読み、音楽をコピーする能力を評価した。単一の音を読み、書くことと音楽記号を書くことはできた。しかしメロディーを書く能力は重度に障害されていた。さらに詳しく見るとその障害は音程ではなくリズムを書くことのほうが障害されていた。患者は音楽をコピーすることはできたがゆっくりとしかできなかった。
■おそらく短い時間の長さを計測するところと音の高さを判定するところを結び付けて統合する能力が頭頂葉の上部にあるのだろう。
音楽を読み書きするところは?
楽譜に書かれたものを生きた音楽にするのは聞こえる音楽をコピーするのとはちょっと異なる。その機能はどこにあるのか?
プロのトロンボーン奏者がリハーサル中に脳出血を起こした。病変の場所は左の角回だった。ここは文字の読み書きに関係する部位である。脳出血のあとこのトロンボーン奏者は文字と音楽の両方について失読と失書を示した。
Kawamura M., MIdorikawa A and Kezuka M Neuroreport 2000; 11:3299-3303

MRIができる前解像力の低いCTで病変を評価された音楽家の報告がある。
Brust JC. Musi and language: musical alxia and agraphia Brain 1980;103: 367-392
左半球に病変があるプロの音楽家(右利き)2例が音楽を読み書きする能力に障害を呈した。第1例では失語症はtranscorticalの感覚タイプで重度の失書症と書き言葉の理解の障害を示した。書かれた言葉を絵と対応させることはできた。楽譜の読み書き以外の音楽能力は正常で5つの異なる言語で歌うことができた。音楽の読み書きについてはリズムより音程の障害がつよかった。第2例ではconduction失語と重度の音楽表現障害を示した。とくにリズムが障害されていた。言語の失語症は第1例より軽度だったが、音楽の読み書きの障害はより重度で音程とリズムの両方が侵されていた。これらの例から考えると、言語を処理する優位半球の傷害が音楽理解に影響し、非優位半球の前頭葉が音楽表出に影響するとか、音楽が洗練されるにつれ右半球から左半球に移るといった考え方は単純化しすぎである。