脳の可塑性

ヒンディー語のTには2種類の音があり、ヒンディー語を話す人には容易に聞き分けられるが、それ以外の人には差がわからない。仮にこの2種のTを「T」と「T*]としよう(もちろんヒンディー語には異なる文字がある)。6か月未満の赤ちゃんに左後方のスピーカーから「T」を繰り返し聞かせ急に「T*」に変えると「おやっ?」という顔をしてスピーカーの方を振り返る。実験によると94%の赤ちゃんが聞き分けられる。ところが10カ月になると20%に下がってしまう。神経細胞が新たな回路を作るためのスパインの可塑性が低下するのだ。スパインの形成には余計なエネルギー的コストがかかるらしく、スパインの活動を抑えるタンパクLynx1をノックアウトすると脳内にアルツハイマー病のような沈着物が急速に増えてしまう。一方スパインができなくなったあとも脳の能力は訓練によって高めることができる。貧しい地区の子ともたちにバイオリンを与えて練習させるプロジェクトを行うと楽器に触れた子供の方が学力が高まり大学進学率が向上する。楽器のトレーニングを継続して行った子供では皮質の間を連絡する繊維の太さが増大する。これはオリゴデンドログリアによるミエリン化が進展しているためだ。ミエリン化によってよく使われる経路の連絡速度が向上するのだ。なぜ楽器なのかというと、楽器の演奏では音を聴くこと、目で見ること、指で楽器を操作することなど異なる活動を時間的に正しく統合して行う必要があり脳の異なる皮質の間の連携を刺激するのだ。(NHK BS1 ドキュメンタリー 人体 より)