人権を重視すると

「経済のことはわかりました。フージンタオさん、それで中国の人権問題はどうなんですか。」
「たいへんいい質問です。今から200年あまり前、フランスではアンシアンレジームが倒され自由平等博愛の社会が始まりました。そして温厚なルイ16世がギロチンの露に消えました。フランス革命の切り開いた自由な個人の人権を柱とする社会は今日の米国をはじめ西欧の豊かな社会をもたらしました。ただ、その過程では影の側面もあったことを忘れることはできません。ナポレオンの軍隊がスペインで何をしたかは有名な画家ゴヤの描く絵に生き生きと表現されています。」
「下手に人権重視の改革を行うとナポレオンのような侵略軍をつくるとおっしゃりたいのでしょうか?」
「ナポレオンの軍隊は革命の飛び火を恐れた周辺諸国からの干渉に対するフランス国民の危機感の表れであることはいうまでもありません。今日中国が人権を重視する政策に転換したとして脅威をうける周辺国は東アジアにはないものと信じたいです。ところで今からおよそ150年前には黒人の人権を解放しようとしたために米国で南北戦争が起こりました。史上初めて米国本土で行われた大規模な総力戦として何十万人という死傷者をもたらしました。ただ、思い出していただきたいのは当時の米国の人口は3000万人ほどだったということです。人口10億を抱える中国では深刻な内的亀裂は何としても抑え込まなければなりません。」