感情の記憶

記憶にはいろいろ種類がある。意味記憶「さんまは秋の魚だ」、エピソード記憶「昨日さんまを食べてうまかった」、手続き記憶「さんまの焼き方」、ワーキングメモリー「いまさっきさんまを火にかけた」、感情の記憶「さんまを食べさせたら喜んでくれてうれしかった」など。ある種の記憶が失われても別のタイプの記憶が残る。「音楽嗜好症」の15章「瞬間に生きる」に描かれるエピソード記憶のない男の話がすごい。脳炎の後遺症で記憶が7秒しか持続しないので、気が付くたびに「今意識がもどった」と感じる。日記に数分ごとに「今目覚めた。今まで死んでいたんだ。」と書き続ける生活。しかしもともと音楽家だったので合唱の指揮やピアノの演奏(手続き記憶)は文句なくできる。感情の記憶も残っているので妻が大事な人だということだけはわかる。
NHKの「ためしてがってん」で認知症の異常行動のメカニズムで取り上げていたのがこれと同様のメカニズム。アルツハイマー病でも感情の記憶に関する扁桃体は保たれるので、理屈は忘れても「止められていやだった」「やらせてもらえなかった」というネガティブな感情の記憶だけが残る。これが暴言や異常行動につながる。