ナテグリニド(短時間作用型のインスリン分泌促進薬)は耐糖能異常患者の糖尿病への悪化も、心血管イベントも阻止しない

糖尿病になる前の耐糖能異常の段階からすでに心血管疾患の頻度が増えることが以前から問題となっていた。血糖をより厳格に下げようとするとどうしても低血糖の頻度が増えてしまう。そこで食後の高血糖に集中して作用する薬剤が注目された。食後の高血糖が血管内皮に障害を与える結果心筋梗塞脳卒中が増えるのだという仮説である。食後の糖の吸収を抑える薬であるアカルボースでは耐糖能異常から糖尿病への進行を一部抑止でき、高血圧になる頻度も減った(STOP-NIDDM研究)。短時間作用型のインスリン分泌促進薬にも同様の効果があるかが検討された(NAVIGATOR研究)。ナテグリニド(ファスティック、スターシス)を用いて9306名の耐糖能異常の患者に実薬(ナテグリニド最大180mg/日)または偽薬が使用された。中央値で5年フォローしたところ、糖尿病へ移行する率は実薬群36%、偽薬群34%で有意差なし。心血管イベント(心血管疾患による死亡、心筋梗塞脳梗塞心不全による入院)は実薬群7.9%、偽薬群8.3%でやはり有意差がなかった。
The NAVIGATOR Study Group Effect of nateglinide on the incidence of diabetes and cardiovascular events. New Eng J Med 2010;362:1463-1476
食後血糖が問題なのだというテーゼは数年前さかんに議論され、実際そこをターゲットにした薬が手に入ったので期待されていた。しかし個人で扱える範囲の患者数では本当に理論が予想するような効果が得られるのか不明である。そこで大規模な共同研究の結果が待たれる。今回nateglinideは残念な結果だった。同様の薬には他にmitiglinide(グルファスト)があるが、最近DPPIV阻害薬も出てきているだけにやや旗色が悪い。しかしシタグリプチンやビルダグリプチンも実際に広く使用された際にどのくらい生命予後を良くするのかはまだ未知数。