科学上の間違い・勘違い

細胞膜のホスファチジルセリンは通常細胞の内側にのみ存在し、これが表に出てくるとアポトーシスで死ぬ細胞であるというシグナルになる。死んだ細胞を放置しておくと、不要の炎症反応を起こし、下手をすると自己免疫疾患の原因となるので、なるべくはやくマクロファージが飲み込んで処理してしまわないといけない。Fadokらはアポトーシスを起こした細胞がマクロファージに飲み込まれるのを阻害する抗体を用いてファージディスプレイライブラリーをスクリーニングし、ある遺伝子をとった。当然ホスファチジルセリンの受容体と期待されるので、PSRと名づけた。PSRを欠損したマウスは胎児期に死亡する。またアポトーシスを起こして飲み込まれていない細胞が増える。これでめでたくホスファチジルセリンの受容体と証明されたと、思ったら、全く異なる機能を持つ分子であることがわかった。なんと染色体のヒストンを脱メチル化する酵素の遺伝子Jumonji domain containing 6 (JMJD6)だったのだ。スクリーニングの時にどこをどう間違ったのか不明だが、染色体のヒストンのメチル化は遺伝子発現の調節に重要なので、これがおかしくなると死ぬ細胞が増えるのは確からしい。
Nagata S, Hanayama R and Kawane K Autoimmunity and the clearance of dead cells Cell2010;140:619-630の一部