南極から深海へ

先日のNHK特集の深海を見た。水圧でタンパク質の構造が影響を受けるというのは水分子がタンパク質分子と相互作用する様態が異なってしまうからだという。魚の生臭い匂いのもとになるトリメチルアミンオキシド(TMAO)は水分子を引き付けることでタンパク質の変性を阻害する。より深海に適応できた種類ほどTMAOの濃度が高いというのだ。これまでの限界といわれた8000mを超える深海で見つかった白いオタマジャクシのような魚はスネイルフィッシュの一種で南極海にいるものと類縁だという。低温でエサの少ない環境が似ているのと南極から流れ出す深層海流が影響しているようだ。少ない獲物を確実にとらえ消化するため顎の外側には内向きの歯を備え、飲み込むための咽頭には別の歯のような構造が飲み込んだエビをバリバリ破壊できるようになっている。深海で食物連鎖の底辺に近いヨコエビは少ない食物を補うため沈んでくる木片を消化できるエキソセルラーゼを持つ細菌を持っている。一方さらに奥のマリアナ海溝深部では意外なほど多くの海鼠が生息し、ヨコエビの姿も見られた。これらのヨコエビの体からはシロイノシトールという物質がみつかり、これがTMAOの限界を超える深海での生息を可能にしているという。もしシロイノシトールを合成するように進化した魚がいれば世界最深の場所にも魚が進出できるかもしれない。しかしマリアナ海溝が深くなりだしたのは地質学的には比較的新しいそうで、生物進化が追いつくのにはちょっと時間が足りなかったのかもしれない。