言えなかったこと

警部との面談では言えなかったが本当に恐ろしいことはもう一つあった。彼は某アイドルのファンでひそかにフィギュアを購入していた。公僕といえども私生活では普通の人間である。好みのアイドルのフィギュアくらい購入してもおかしくない。ところが職務質問した人物の持っていたかばんの中に同じフィギュアがあり、しかも上半身のみが切断されて自分そっくりに作られたマネキンの口がそれを噛んでいるとなるとぎょっとする。偶然同じアイドルのファンだったといえなくもないが、個人的な生活のディティールまで調べ上げているとすると完全にストーカーのレベルである。これまでの職務経験で恨みを買うような仕事をした覚えがない。ここまで執拗な情熱をかけて偉くもない自分を狙ってくる存在がいるということが非常に不気味なのだった。