グーグルの恋するエピソード77

さて一番難物そうな「恋する」だ。
彼女(仮にAと名づけよう)は恋したことがなかった。恋するどころか他人の心の動きがぜんぜんわからない。世の中の人は笑顔とか、眉をひそめるとか好悪の感情を表す表情を持っているらしいのだがAにはそもそも感情がないので他人の感情もまったくわからないのだ。それでも生きていかないといけない。もともとまめな性格のAは(感情がなくてもまめであることはできるのだ)「こういうときはこうしろリスト」をひそかにつけていた。多数の文学作品や漫画、友人知人(感情もないのにちゃんと友人や知人がいるところがAが普通でない証だろう)から仕入れたネタをもとに、シチュエーションにしたがって対応すべき方法がリストされているのだ。その中には「遅刻しそうで食パンをくわえたまま走っていたら曲がり角でイケメンと鉢合わせして倒れてしまう」といったリストまで入っているが常時1000件くらいのリストを暗記することなど当たり前のAには無駄ではない。とにかく目立たず一見ふつうに生きていくことがAの命題なのだ。ところでAも年齢だけはそれなりの年なので人並みかそれ以上の体格であった。ということはこの年齢の男子なら好意を持ってしまう分子がいないとも限らないのだ。それが今回の「恋する」だ。これはリストの何番にしようか?Aはとりあえずエピソード77に入れておくことにした。