このひと…

「このひと痴漢です!!」と手首をつかまれ腕を持ち上げられたのは黒縁メガネで黒いスーツの気弱そうなサラリーマンだった。ところが…
彼の腕はひじのところではずれてとれた。それもつかまれた右手だけでなく左手までも。両手が義手だったのか??それじゃ触っても感覚がないから痴漢どころじゃないだろ?と思っていたら、突然彼が彼女に頭突き。鈍い音とともに彼女はしりもち。鼻血を出してうずくまる彼女を残して彼はだっとのごとく走りだしホームを逃げる。逃げるってことはやっぱり痴漢だったのか?とみているととれた肘から鋭い爪のある手が生えてきた。行く手に立ちすくむ太った男性を一撃で引き裂くと線路を挟んでホームと反対側の壁にぶん投げた。べしゃっと音がした後血のシミを残して男性の体が壁からずり落ちる。その間にあわてて逃げ惑う客たちをすり抜け彼はホームの端にたどり着くと線路に降りてトンネルのなかに走り去っていった。
彼女は間違っていた。このひとは痴漢じゃなかった。「このひと妖怪です」だった。