現実を見ない

「なんというか世の中には2種類の人間がいる感じがするんだ。」
「どんな?理系と文系とか?」
「いや違う。世界を文字に書かれたものとしてしか認識しないタイプと、手で触れ、においをかぎ、味わい、自分の耳で聞いて認識するタイプだ。」
「でも認識したものを記録すると結局文字になるだろ?」
「それなんだけど、前者のタイプは『世界はこうあるべき』というカノンが決まっていて、見たもの、聞いたものをすべてそれにあてはめて解釈するタイプさ。はじめにキリストなりアリストテレスなりマルクスなりがあって、それに従ったものが正しいというタイプだよ。」
「まあ正典があれば安心感はあるよね。」
「でも現実の世界はそういうわけにいかないだろ?西向きに進んで船が東から帰ってきたらもう世界は丸いと信じるしかないし、以前の東側の世界の環境破壊を見れば社会主義共産主義がいかにエコロジーに無頓着だったががわかるってものだろ?」
「たしかに人民が貧しくとも平等で社会が安定しているのだけが正義なら森や川がいかに汚れようと正義のために必要な犠牲と納得するしかないよね。」