同じもの?

「そうか、もう君はいないのか。」
そう呟いてからなんかそんな名前の本があったような気がした。たしか妻を亡くした作家のエッセイだったか。
かつてよく眺めた桜の木を訪ねてみると見たこともない高層マンションになっていて、そこが同じ場所だったのかすら自信がなくなる。
「そういえば、かつてのこの国も、もうどこにもないんだな。」
いまでも焼け跡から世界を代表する産業国家に再生した気概を保っていると思っている人もいるが。
「何もしないほうが吉だよ。」
そんな気分が支配する春の街角を車が通り過ぎていく。