TACE(TNF-α変換酵素)抑制がメタボリックシンドロームに効く?

TNF-αはインスリン抵抗性を起こすために重要なサイトカインだ。TNF-αは細胞膜についた形で産生され、プロテアーゼで切断されて遊離される。この切断のための酵素がTNF-α変換酵素(TACE)である。TACEを働かなくするとどうか?というのが疑問だがこれまでノックアウトマウスの結果はなかった。Cre-loxPシステムを用いてCreを働かせたときのみTACEの遺伝子が働かなくなるマウスを作製した結果が報告された。詳細は省くがCre-loxPシステムはloxPという短いシグナルで挟まれたDNAの領域がCreという酵素で切り取られるという仕掛けを用いていて、通常のノックアウトだと胎児や新生児期に死亡してしまう場合にこれを回避するために良く使われる。さてloxPで挟まれたTACEの変異遺伝子を持つマウスはCre発現ウイルスをかけるとTACEが消失する。このCreマウスと対照(CON)マウスに高脂肪食を食べさせて代謝を調べるとCreマウスのほうが耐糖能が良好でインスリン感受性もよかった。肝臓の脂肪肝の組織像もCreマウスでは軽く、肝臓の中性脂肪含量も少なかった。副睾丸の脂肪組織(腹部の脂肪として内臓脂肪の代表として用いられている)はCreマウスのほうがサイズが小さかった。副睾丸の脂肪組織へのマクロファージの侵入数は高脂肪食で増えるがCreマウスでは軽かった。インスリン感受性をよくするアディポネクチンの発現は肥満すると低下するがCreマウスでは高脂肪食でも低下しなかった。またエネルギー消費量もCreマウスではCONマウスより多かった。
TACE阻害薬ができたら肥満・メタボリックシンドロームに対する薬になるのか?それよりは運動や健康的な食事で対処したいものだが。
Kaneko H. Anzai T. et al. Temporal systemic deletion of tumor necrosis-factor-α converting enzyme prevents development of high-fat diet-induced insulin resisance, hepatosteatosis, adipose tissue remodeling with ameliorating energy expenditure. Abstract 13654: AHA meeting Circulation 2010; 122:A13654