myostatin-ActRIIB blocakade in cancer

Zhou X., Wang J.L., Song Y. et al. Reversal of cancer cachexia and muscle wasting by ActRIIB antagonism leads to prolonged survival. Cell 2010;142:531-543
がんができた患者は食欲が落ちて筋肉が減少し、やがて消耗してなくなってしまう。これをがん性悪疫質(cachexia)というが、その原因は腫瘍壊死因子(TNF-α)によると考えられていた。ところがmyostatinもこのcachexiaに影響しているらしく、ミオスタチンのシグナルを遮断するとがんになっても体重減少が阻止できるという論文が出た。ミオスタチンの受容体はアクチビン受容体IIB(ActRIIB)だが、これの細胞外部分のみを遊離させた可溶性受容体(soluble ActRIIB、 sActRIIB)は細胞外でミオスタチンと結合して本来のActRIIBへの結合を邪魔する。このような作用は一般にデコイ(おとり)受容体と呼ばれている。人工的にsActRIIBを合成するためActRIIBの細胞外の部分を免疫グロブリンG(IgG)のFc部分(抗原と結合しない部分)と結合した形で合成した。できたタンパク質はモノクローナル抗体を精製するのと同じ方法でFc部分に対するアフィニティークロマトグラフィーで精製した。さて、マウスにがん細胞を移植したのちsActRIIBを注射し続けるとがん細胞の増殖は阻止しないが、筋肉や心筋の萎縮が阻止され、食欲低下も回避された。やせに関係するほかのサイトカインのTNF-αとIL-6の量は変化しなかった。筋肉のタンパク質の分解はユビキチンープロテアソーム系の活性化によっていて、ActRIIBの阻害はこの経路の活性化を阻止した。筋肉の再生にはそのすぐ外側にあるsatellite(衛星)細胞の増殖が必要だが、ActRIIBの阻害は衛星細胞の増殖を促進して筋肉の再生を促した。
食べられないでやせるとがんと戦う気力そのものがなくなってしまう。体力をつけて、がんがあっても生き延びるという戦略はがん治療の方向性を変えるかもしれない。