高血圧による心筋肥大を招くCIB1

心臓肥大は運動を継続することによって起こるが、高血圧などの病的状態に伴ってもおきる。このメカニズムにはどうも違いがあるらしい。心筋の収縮にカルシウム(Ca2+)は重要なシグナルだが、筋細胞内の特殊な小胞体(サルコレマ)に蓄えられていて脱分極刺激にしたがってCa2+を出し入れする。心筋肥大を促進するタンパク質は脱リン酸化酵素作用を持つカルシニューリンである。カルシニューリンの調節サブユニットであるカルシニューリンBに結合するタンパク質をイースト2ハイブリッド法でスクリーニングしたところCIB1というカルシウムを結合するタンパク質が同定できた。CIB1は主にサルコレマに分布していてCa2+細胞内に通す穴であるLタイプCa2+チャンネルに伴うカルシニューリンの作用を調節しているらしい。さて、病的な心筋肥満ではCIB1が増えるが運動など生理的な心筋肥大では増えない、という。CIB1を発現させなくしたマウス(CIB1-/-)は圧負荷(=高血圧)やカルシニューリン活性化薬で心筋肥大、心筋の繊維化、心不全が起き難い。しかし水泳をさせることによって起こる心筋肥大はCIB1-/-マウスでも変わりなく生じるのだ。つまり病的心筋肥大と運動に伴う心筋肥大はCIB1−カルシニューリンのかかわり方が異なる。
Heineke J., Auger-Messier M. et al. CIB1 is a regulator of pathological cardiac hypertrophy. Nature Med. 2010; 16:872-879