マスト細胞と肥満

マスト細胞は肥満細胞とも言われ、皮膚の中でヒスタミンを出してかゆみのもとになったりする。顕微鏡でみると顆粒がいっぱいでふとって見えるので肥満細胞というようだが、本来肥満とは無関係のはずだった。肥満したヒトの脂肪組織にはマクロファージやTリンパ球が侵入してくるが、冗談のようだがマスト細胞も増えることが免疫染色でわかった。マスト細胞は皮膚では傷が治るときに関係していて、新しい血管をつくったりする。実際、マスト細胞やマクロファージは細かい血管の周囲に認められた。新しい血管ができるためには周りの構造を組み替える必要があるのでマスト細胞はカテプシンというタンパク分解酵素を持つ。遺伝的な変異(c-Kitのプロモーターの変異)でマスト細胞がないマウスがいる。このマウスに高脂肪食を食べさせると肥満の度合いが正常マウスより明らかに軽い。マウスの間で骨髄細胞を移植することによってマスト細胞を回復さえることができる。上のマスト細胞のないマウスにTNFαのないマウス、インターフェロンγ(IFNγ)のないマウス、インターロイキン6(IL6)のないマウスからそれぞれ骨髄を移植すると、TNFαのないマウスの骨髄を移植すると肥満するようになった。IFNγとIL6のないマウスの骨髄では肥満しにくいままだった。つまりマスト細胞が出すIFNγとIL6がなにやら肥満と関係しているらしい。遺伝的な変異がなくてもジソジウムクロモグリク酸(DSCG、インタール)やケトチフェン(ザジテン)はマスト細胞をおとなしくさせることができる。いずれもアレルギーの治療に用いられる。マウスにDSCGやケトチフェンを注射すると高脂肪食でも肥満しにくく、いったん肥満したマウスでも肥満度が低下することがわかった。このとき脂肪組織のなかのマスト細胞の数は変わらないがカテプシンの量が減少する。
Liu J, Divoux A et al. Genetic deficiency and pharmacological stabilization of mast cells reduce diet-induced obesity and diabetes in mice. Nature Med 2009; 15:940-946