物語の必要性

ロベルト・ボラーニョの「2666」をやっと読了。なんかふつうの本と違うなあという印象。いったいどこに向かうのかわからない雑駁とした日常のような記述の中に徐々に浮かび出る恐怖。手違いで送られたギリシャユダヤ人の「処分」を任された男とその命令で手を下させられた少年たちの記述。個人の善悪感とは無関係に一種の構造によって押し付けられた悪はどうしたら止められたのか?国境の工業都市で多発する女性殺人事件はグローバル経済という構造の押し付ける野蛮さの表れなのか?なんてことを社会学的な調査で記述してもリアリティーというか魂に響く重みが違う。人間が本当に記憶できるのは知識としての数字や理屈ではなく、個々の物語なのだ。

チリ夜想曲 (ボラーニョ・コレクション)

チリ夜想曲 (ボラーニョ・コレクション)