言葉にできない

彼女と一緒にいると彼はいつもどこか息苦しいような気持ちを覚えた。そんな自分を責めたくなると、同時に最終的には自分の感覚の方が正しいのだと証明してしまいたい衝動がうずく。ああ、なんで君はそう、無防備に前向きで真摯なんだ?それが当たり前の世界で育ってきたってことかい?悲しいけど僕はそうじゃない、と彼は思う。何が正しいかなんてみんな聞かなくてもわかってはいる、でもそれに忠実であることがどれほど努力を必要とするか。君の持っている”正しさ”が誰かの犠牲の上に成り立っているとしたら、それに気づいたら君のそのすがすがしさも吹き飛んでしまうんだろうね。世界には君とは全くことなる原理で成り立っている人がいる、そんなことに気づいたことはないのかい?残念ながら、そんな気持ちをゆがみのない形で言葉にする日本語を彼は持ち合わせていなかった。