パンによる弔辞

人はパンのみによって生きるにあらずとも申しますが、人はまたその食べるものによって知られるとも言えましょう。本日は個人を偲んで彼が好きだったパンの面からその一生を振り返ってみたいと考えます。物心ついた頃の彼が近所の駄菓子屋でよく買っていたのは25円の三角パンというものでした。カステラのような色で甘いもののスカスカなパンでただサイズが大きいだけが取り柄なパンでした。学校の給食でお世話になったのはコッペパンでたまに出る砂糖のかかった揚げパンがお楽しみでした。高校の頃には売店のサンドイッチを愛用し、コールスローが挟まれた独特のサンドがお得意でした。もう一つはクリームの挟まれた細長いパンで、その包みの袋を膨らませて破裂させると予想外に大きな音がするのを楽しみました。大学を出て成人してからは通常の食パンよりはライ麦パンを好み、さらにパンドカンパーニュやパンオレザンのような噛み応えのあるものを好みました。クルミの練りこまれた石釜パンは彼の好みの一つでした。手に入る時にはベーグルを愛用し、タマネギやシナモン、ブルーベリーの入ったものも好みました。その一方でバターたっぷりのボローニャの食パンのようなタイプは苦手とし、クロワッサンも特別好んだようすはありません。この弔辞をお聞きになった方々が帰りに故人の思い出に浸りながらそれぞれお好みのパンを手にとって見られるようなら彼も天国から微笑んでいることでしょう。