泣ける話

「志望の動機とかもっともらしい話はもう聞き飽きていますので、あなたにとって泣ける話をしてください。実話でも作り話でもけっこうです。」
「泣ける話、ですか?」
「ええ。まさかゼミで予習なんかしてないですよね。」
ルポルタージュの授業はありました。そこで出会った事例ですがお話しさせていただきます。S県の山村で棚田の景観を守るために蛍を育てる計画が持ち上がりました。幼虫のエサになる貝を養殖して農薬を使わない田に放して見てもらう計画です。蛍の里親をネットで募集して集まったお金で田んぼの手入れの費用を賄ってできたお米は”蛍の舞う里の無農薬米”というブランドで売ろうという計画です。」
「それでうまくいったの?」
SNSとかでうまく取り上げてもらえればよかったのですが、そこのところが不器用で結局地縁・血縁を頼って里親になる人を探して何とか蛍を育てました。本当の無農薬は難しいので最小限に農薬を使っておいしいお米ができました。でもなぜかわずかながら農薬を使っているというところだけがネットに流出して”無農薬の”というのが虚偽の表記だと叩かれることになってしまいました。手間をかけた割に儲からないお米になってしまいました。」
「それは残念ですね。」
「でも子供たちは蛍の乱舞で喜んでましたよ。動画もありますからよろしかったら御覧になってください。」