診療所長の最後

その日は山間部に唯一残った診療所が閉鎖になる日であった。40年前から一人で診療を支えてきた院長が高齢を理由についに退職を決意したのだ。「院長まだまだ若いよ。まだいける。」という人もいる一方で「俺が小学校のころに見てもらったはずなのにいつの間にか俺の方がよぼよぼになっちゃったよ。」という人もいる。実のところ髪こそ白いが足も達者な院長は何が「健康上の問題」なのかを明らかにしていないが、ひそかにがんじゃないのか?とも取りざたされている。しかし、真相は別のところにあった。彼は600年前の室町時代から生息していて、20年ほど暮らすと「あの人は年をとらない。なんか化け物じゃないのか?」という近隣の声を気にして全国を渡り歩いているのである。今回は居心地が良くてつい長居をしすぎてしまった。早く痕跡を消して死んだことにしなくちゃ。と思う院長であった。