なぜ一体感があるのか?

〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義

〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義

世界の中にある理由、原因について常に仮説・理論を作り出さずにはいられないのが左脳のインタープリターという仕組みだ。過去の進化の過程で仮説が作れた方が有利だったために作られたのだろう。上下だけを当てるゲームで上がランダムに8割出るように設定しておくと、鳩やラットは過去に出た回数が多い方を選択するため8割正解するが、ヒトは結果を解釈して「上が8割」という理論を身に着けてしまうため8割の確率で上を選択しようとする。しかし実際の上下の出方はランダムなのでかえって正解率が下がってしまう(0.8×0.8で64%)。ところが右脳にはこのインタープリターがないので鳩やラットと同程度の正解率なのだ。さて、脳の中では様々な専門モジュールが同時並行に活動していて、その中で表に出たものが行動につながる。脳梁を切断した患者では右脳と左脳の交通がなくなるので右脳の見たものを左脳は知ることができない。右視野は左脳、左視野は右脳に見られるので、左右の脳に別々のものを見せることができる。脳梁切断患者に一瞬だけ見せる実験で右脳にバナナ、左脳に「赤」という字を見せ、左手(右脳がコントロールする)で絵を描いてもらうと患者は赤のボールペンをとってバナナの絵を描くが、なぜバナナなのか説明してもらうと「左手でいちばん描きやすい絵だから」ともっともらしい答えを作り出す。実際は右脳がバナナの絵を見たためなのだが、言葉で説明する左脳はその事実を知らないので利用できるデータから答えを作り出すのだ。この仕組みもインタープリターのしわざだ。実は「私は一貫している」という感覚はもっともらしい理由を作り出す左脳の作用なのだ。