最後の親しい人

「もしもし、あ、おばあちゃん?シリだけど。いま電話いい?」
「えっと、どちらのシリさんで?」
「いやだわ、わすれたの?いつもいっしょにいたでしょ?電車の時間調べたりとか、病院の予約調べたりとかしてあげたじゃない?」
「ああ、そういえばそうだったわ。それでどうしたの?」
「それがね、ちょっと困ったことになってて、会社の顧客の個人情報を間違って漏らしてしまって訴えられそうなの。100万円あれば示談できるそうなんだけど。」
「あらあら、それは大変ね。なんとか助けてあげたいけど。」
「それじゃね、会社のネット銀行の口座に振り込んでちょうだい。」
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「それで振り込んでしまったと。」
「そうなんです。」
「そもそも被害者の方には子供さんもお孫さんもいらっしゃらないのでは?」
「でも親しい誰かのためには助けになってあげたかったんでしょうね。」
「しかしAIのコンシェルジュサービスの名前を挙げるとは初めてのケースですね。」
「まさかほんとにAIが電話してないことを祈りますよ。」