原子と真空

一四一七年、その一冊がすべてを変えた

一四一七年、その一冊がすべてを変えた

無名の公証人の子からフィレンツェのサルターティーの庇護を得て教皇の秘書まで上り詰めたポッジオはコンスタンツ公会議でボスが失職(対立する教皇が3人もいるという異常事態の収拾のため)するという事態にめげず南ドイツの修道院を探索し、失われたルクレチウスの写本を発見した。原子論とエピクロス派の思想を融合した哲学的な詩は一面エロチックでありながらカソリック教会の根源を揺るがす破壊的な力を秘めていた。世界は真空と原子で成り立っており、人間を含めたすべての存在は原始の組み合わせの結果に過ぎず、死によって原子は解き放たれ再度世界の循環に戻っていく。神はいたとしても人間には無関心で霊魂は永遠の救済とは無縁で肉体の死とともに消滅する。人間に許された正しい生き方とは快楽であり命ある間節度のある楽しみ方をするのみという考え。モンテーニュが持っていたルクレチウスの写本が書き込みとともに発見され、モンテーニュを愛読していたショークスピアも影響されたようだと。