彼女はデモで殴られてきた弟の額をタオルで冷やしながら言う。
「もうこんなことはやめてね。あなたが殴られてきても何も変わりやしないんだから。」
「誰かがやらなきゃ何も変わらないのは確かさ。目の前の不正を見ていて知らん顔をしているようなまねだけはしたくないんだ。」
「あのね、あなたくらいの年ごろになると理性で正しいかどうかよりも、自分の周りの仲間の眼がどうかってほうが重要になったりするのよ。その仲間だって後になってみれば、『なんであんなことに熱を上げてたんだろ』ってなるのが関の山よ。」
「そんな覚めた見方を続けていたせいでどんどん抑圧が強化されて首が回らなくなるばかりだろ?」
「私はあなたに傷ついたり死んだりしてほしくないだけ。それだけは約束して。」
弟の右目は青黒く腫れあがり目が開かない。唇も切れて腫れているが縫う手段がない。彼女は弟が焼身自殺という最後の手段に訴えるのではないかと不安でたまらない。