あえてする理由がない

「お尋ねの肝臓の嚢胞のことですが、大きいだけではあえてとる必要がないと思われますが。」
「でも知り合いがやっぱり嚢胞で15センチくらいあったので針を刺して抜いたんです。」
「おそらく液を抜くこと自体はさほど危険がないと思われますが現在肝機能に影響が出ていませんので。」
「簡単にとれるんなら心配だからとってほしいんですけど。」
「個人個人で条件が違うので思わぬリスクというのがありえます。あえてリスクを冒してやる理由がないとトラブルがあった時に『なんでわざわざそんなことしたの?』ということになってしまいますよ。」
「あえてやる理由というのは何?」
「嚢胞が大きくなりすぎて肝機能に影響が出たとかでしょうか。」
「たとえは違うかもしれないけど、15mの津波が来るかもしれないというのを想定して堤防を作っておくみたいな考えはないの?」
「何かあった時に取り返しのつかない事態になるかどうかですね。この場合はあまり命に係わることはないと思いますが、たとえば破裂したら命に係わる動脈瘤でも手術のリスクが一定レベル以上だったら万一トラブルになった時には訴訟になる恐れがあります。リスクの感覚は正確に共有するのが非常に難しんですよ。多くの場合に『言った、言わない』の不毛の論争になります。それに堤防は作る途中で事故を起こす危険性はかなり低いでしょう?」
「クレーンが倒れて格納容器を直撃なんてことがなければね。」