暇つぶしのお話39

「アリオリの国の重臣キネントスの息子は父に尋ねました
”土地を失った農民を荘園の労働者にせずに開拓地に回したのはなぜです?”
”お前は国の基本は何だと思う?”
”国王と国土と国民ですか?”
”優等生の答えだな。教科書に書かれたことは死んだ学問だよ。もっと現実を見るがいい。”
”おっしゃることが…”
”たとえば国土を失っても国民がほかの土地に移って国家を再建することができると思うかね?”
”歴史上それに成功した民族もあれば流浪を続ける民族もありますが”
”そして跡形もなく吸収され民族としての同一性を失ったものもある”
”父上はペシミストですね”
”大国の重臣ペシミストでなくてどうする?一度傾きかけたら支えられるものなどめったにいないのだよ?”
”傾きかけた柱のきしみが聞こえる前に手を打てということですね?”
”そうだ。もし国民がみな誰か自分以外のものを当てにし、主人に盲目的に従う集団になったらどうする?”
”それが傾きの始まりと?”
”そうだ。国民をサーカスとパンでてなづけたと思ってはいけないのだ。それは国家のもっとも貴重な資源を浪費しているのと同じなのだよ。”
”開拓地で苦労すれば自分の土地を得られる可能性に賭けるような国民を増やしたいということですね?”
”そう。荘園に抱えいれて養っておけば、いざというとき私兵として使えるという考えもあろう?だが、そうした考えの持ち主はいつまでたっても依存的なだけの人間を増やしているのだ。”
”父上のお考えはほかの貴族とかなり変わっていますね。”
”かつて国民一人にひとつの権利を割り当てて代表を選ぼうとした時代があった。その時代に特定の集団を代表した人はその集団の幸福を本当に考えていたと思うかね?”
”ふつうはそうでしょう?”
”甘いな。一部の国民の不満を満たすことに意義を見出している限り、その集団がいつまでも貧しく、弱く、自分を頼ってくることが利益になるという代表もいるのだよ。代表すべき国民よりも自分の利益のほうが優先しているのだが、だれもそれをそうと指摘しないのだ。”」
「今日の話は難しくてなんのことかわかんない」