記事の読み方

http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/bfa3c758e46d24ca37b97d6ad063cdc9から引用

「空」といえるのは、「2011年3月期末の手元資金がはこれまでの発表分で約52兆円と1年前より4%増え、過去最高の水準となった」という部分だ。このほかに、記事の中では、具体的に手元資金の積み増しをしている企業の例として、複数の製造業を挙げている。社債コマーシャルペーパーを発行してまで、手元資金を積み増しているようだ。この辺が「空」である。

ここまでで、何故企業は手元資金を増やしているのだろうか?と考えるところが「雨」である。
一般的に企業は、部品や素材を仕入れてその代金を払い、製造した製品を販売して、代金を回収する。この代金回収が間に合わないと、資金不足に陥り、大企業といえども借り入れなどしなければ倒産してしまう。手元資金を増やしているのは、この代金回収が間に合わないかもしれないから、多めに手元に現金を持っておこう、ということである。

では何故、日本企業は代金回収が間に合わないかもしれない、と見ているのか。理由は二つありそうだ。
ひとつは、日本の製造業の企業は、取引先の企業、特に銀行の信用力が低い中小企業がつぶれてしまうなどで、代金回収が出来ないところが多いかも、と見ているのだろう。
もうひとつは、自社の製品の生産が予定通り行かず、資金が予定通り入ってこないことを懸念しているのだろう。記事には、ホンダや三菱自動車が手元資金積み増し企業例として載っている。別の日の記事を思い出すと、自動車企業は、一部の部品の調達が間に合わず、生産が遅れているという話があった。ということは、ほとんどの部品については調達を継続してるから資金は出て行くのに、ある一部の部品が間に合わずに製品は出荷できず、お金が入ってこない、となることを想定しているのではないか。

ということは、自社にはどういう影響が及ぶだろうか、というところまで考えるのが「雨」である。例えば、自社が今のところ上流からの影響は少ない鉄鋼メーカーだったとする。自動車業界がこんな状況だと、今は出荷は順調だけど、そのうち多くの部分で需要が止まるかもしれない、と「雨」のストーリーを作っていくわけである。

記事の最後の「豊富な資金力で戦略投資に踏み切れるかどうか」という文章は、記者が書いた「傘」にあたる部分だが、これは正直疑問符である。この記者は「手元資金=成長の原資」という方程式が頭にこびりついてるのかもしれないが、企業が手元資金を増やすのは、必ずしも成長を見越してではない。むしろ一般的には、市況変化が大きな業界で、資金回収が不安定になる可能性が高い企業が、キャッシュがショートしないように手元資金を多く持つ傾向が高い。例えばGoogleがそうだし、米国のバイオベンチャーもその傾向が強い。手元資金を成長につなげろ、といいたい気持ちは非常にわかるが、ちょっと飛びすぎ感がある。

むしろ「傘」を考えるなら、これだけの企業が中小の企業が飛んだり、製品の出荷が遅れると考えてるとすると、自社にどういう影響が及び、自分たちはどうすべきかを考えるべきだ。例えばこの記事を読んで、自社の出荷がそのうち止まると予想されるなら、そのためにどのような手を打つべきかを考えるわけだ。

このように、新聞記事に書かれている記者の解釈にとらわれずに、
「空」=「事実」は何かを見極め、
「雨」=そこから得られる自分の業界への影響を考え、
「傘」=何をすべきか、どう手を打つべきか、
ということを一つ一つの記事について考え、ストーリーを作る、という練習をすると良い。慣れると、ひとつの記事を読みながら、このようなことを瞬間的に考えられるようになるだろう。そうすると、たった10分で日経新聞を読み終えても、得られるものは非常に多くなる。

論文の記者の解釈にとらわれずに事実は何かを見極め、自分なりのストーリーを構築できるか?はサイエンスでも重要だな。