魔界2
メイリンは特別工作隊にスカウトされた。といってもとくに目立った少女ではない。どこにでもいる戦争孤児で宿屋の店先で4歳の弟を膝に乗せてうずくまっているところを北軍の兵士に連れてこられた。暖かい粥をあてがわれてやっと生きた心地がしたメイリンはにこやかな隊長(?)に特別工作隊に入らないか?と勧誘された。入れば食事と寝るところは保障され、4歳の弟は学校を出るまで軍が面倒を見てくれるという。弟思いの姉としては断る理由はない。どんな苦しい訓練もがまんします、と意気込んだのはいいが、訓練というのが普通にかわいらしい女の子らしくすること、というので拍子抜けがした。髪を毎日洗ってよくとかし、シラミはしっかりとる。鏡をよく見てにっこりする練習をする。それで何をするのかというと信号で止まっている車のところへガムを持って行って売ってくることだという。親を亡くした子供がよくやっているアルバイトだ。なにも軍がそんなことで小金を稼がなくてもいいじゃないか?と不思議に思うような頭は子供にはない。弟のためにも私が一番売るわよ、そのためにはかわいくなくちゃ、と一層洗顔にも気をつける。さてそろそろガムの売り上げも見込みが立つようになってきたら「今度はこれを持っていきな。」とかごを渡された。ガムが入っているにしてはみょうに重い。かごが上げ底になっていて下に何か入っているようだ。「重そうに見せるんじゃないよ。」と念を押されて小さいながらも精一杯かごを支える。北軍ではこの子らのことを「変種第3号」と呼んでいる。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
- 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1977/03/01
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